駄目社員はむの日記

USO800 certified.

NVIS伝搬とアンテナ、あとNVISモードのヘンテナの話。

NVIS(エヌヴィス、エヌヴィズ)とは、 Near Vertical Incidence Skywave の略。HFの特にローバンドを用いて、(低地・山間地みたいな場所であっても)電離層反射により近距離〜中距離の通信を実現させるするために、電波を地上から(ほぼ)垂直方向に打ち上げるコンセプトのことだそうだ。
#どうやら、軍事通信由来の思想のようですな。
NVISによる伝搬はHF帯、それも入射角の小さいF層反射によって近場と通信しやすい”ローバンド”(日本では実質80m/40m)で有効らしい。



"NVIS Radiation Pattern" by Gerolf Ziegenhain - Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons.


NVISについては、高角度放射空間波伝播に非常に明快なレビュー(JA6DFNさんの和訳)があるので、僕のヘボ解説よりもこちらをご参照いただきたい。
日本では徳島大の先生が非常通信に生かしましょうと提言しているが、案外あまり知られていないかもしれない。

要はアンテナの垂直放射パターン上、真上に向かって全力で電波を打ち出せばいい。

(期せずして、かもしれないが)打ち上げ角が非常に高いアンテナを使用した状況がNVISに相当する。その典型が、7MHzで低地上高に上げたダイポールやインバーテッドVだろう。地面と平行に張った1波長ループも同様だ。一方、地面と平行に2本ワイヤーを張った2エレ八木は、積極的にNVISを狙ったものと考えられる。


NVISコンセプトを日本における7MHzの伝搬に当てはめると、「打ち上げ角が高いため、国内QSOには向いているが、DX QSOには向かない」と解釈できる。よく言われる”7MHzの国内QSOには、15mH以下に張ったダイポールがいい”に相当すると思う。
#実際そういうアンテナだとDXはあまり聞こえないし、聞こえていても届かないことが多い。

一方、先週末7MHzでQSOしたZL(ニュージーランド)の局は

ともかく、めっぽう強かった。
氏は所謂”ヘンテナ”(λ/2 x λ/6の長方形で給電点を動かすオリジナルのヘンテナ)のループを4-5m高で地面と平行に張って、NVISモードで動作させているという。シミュレーションすると、地面の反射効果も期待できるとのこと。


JA⇔ZL間距離は約9000km。
入感しやすいパスだとはいえ、立派な長距離DXだ。NVISモードのアンテナのはずなのに。
まあ、ひとまずこいつを “NVISヘンテナ”と名付けておくことにしよう。

その方とメールをやり取りしてみると

NVISヘンテナについていろいろ教えてくれた。下記は7MHzでのケースとのことだが、

  • ダイポールとの比較
    • 大半のケース(DX/近場)で、高く張ったダイポールよりS1以上ベター。
    • ダイポールよりノイズレベルがずっと低いため、S/N良好。(“quiet”だそうで)
  • DXコンテスト中、水平ヘンテナ*1・垂直ヘンテナ*2との比較。3つ切り替えてみたらしい。
    • まず垂直ヘンテナはてんでダメ。
    • 水平ヘンテナとNVISヘンテナで比較するとケースバイケース。いずれかがS2つ程度良く入感する。どちらが明らかにベターともいえない。

とのことだった。NVISヘンテナは”劇的に良い”訳ではなさそうだが、なんだか不思議な魅力があるような。

私、気になります!

特に比較結果の後者は興味深い。入感パスや偏波面の違いによるものなのだろうか。

  1. ループなので、終端を開放したアンテナよりノイズに強そうなのはわかる。
  2. バレージアンテナ実験で体験したように、アンテナの高さが低く地面と平行になるとノイズからかなり逃れられるのも、わかる。
  3. ヘンテナは地上高・設置環境の影響を受けにくく、”地上高が低くても妙に飛ぶ”アンテナだということも、実体験からなんとなくわかる。*3

とはいえ、そんなヘンテナが、”DXへと楽々飛ばせるほどに”素敵なアンテナだったりするだろうか?

新西蘭人もすなるヘンテナといふものを

そこで僕も、NVISモードで動作するヘンテナを検討してみることにした。
異なる伝搬パスからの電波を受けられるよう、複数のアンテナを駆使するというのはなかなか面白いものだ。

*1:長方形ループが地面に垂直に立った形状

*2:長方形ループが地面に水平に寝た形状

*3:こういった作りやすさと無難な飛びが、ヘンテナ神話へと置き換わったんじゃないかと僕は踏んでいる。実際、屋根スレスレに設置したケースなら、3el八木よりはヘンテナの方が飛びそうだ。