駄目社員はむの日記

USO800 certified.

ケンウッドのHF機、それもコンパクト機列伝な談義、その二。600番台の系譜の話。

某氏とSkypeしていて、ふと、以前書いたケンウッドHF機系譜の余談を書きたくなった。


ケンウッドの600番台。
それは、6m固定機にHFを加えて入門機から徐々に実戦機へと進化し、競合他社を先導してきた歴史に他ならない。*1

TS-600:ストイックな6m専用機。

郷愁を覚える人も少なくないだろう。僕は6mマンではないので、軽くしか使ったことはないのだが、6mだからこそ存在しえたリグだと認識している。
使用感は悪くはないが、聴感的なS/Nが悪い受信音で、6m機だから許されたのかもしれない。
#クリコンを付加してHFを聞いたらひどいことになっていたことだろう。

TS-660:TS-600から進化したのかどうか。

21/24/28/50MHzという、入門バンド+αに拡張したリグ。

  • あのフロントパネルは当時の流行だったのだろうか。それに、発売当時、何故89年に解放されるWARCバンド(24MHz)までくっついてきたのだろうか。謎が多いリグだ。ともかく21MHz, 28MHzにも出れるようにしたかったんだろうなぁ。
  • 6m中心ということで受信感度重視の思想だったのだと思うが、ローバンドがないお陰か、あまり受信性能の欠点が目立たないリグだった。

#中古は、価格がつかないレベルのリグ。

TS-670:コンセプトが良くて売れた6m+α機。

7/21/28/50MHzのクワッドバンダー。今からすると不思議でいろいろハンパな構成だ。

  • 86年頃に登場し、50MHz実践機として80年代中盤一世を風靡したと思う。デザインが一新して急にフロントパネルがかっこよくなる。4アマ>100Wのバカタレだらけの現代と違い、「電話級取りたてだから10Wで入門バンドをカバー」と言うコンセプトが結構受けたんだと思う。
  • 今からするといろいろな意味で過渡期的で謎だが、「受信だけはジェネラルカバレッジにするユニット(GC-10)」「FMの送受信するためのユニット」と言う、今からすると珍妙に思えるオプションが売られていた。あと、50MHz AMで快適に運用するには実質AMフィルター(YK-88A)が必要だったとか。
  • 当時のケンウッドのHF機ラインアップでは、TS-430からTS-440へ代替わりする過渡期。TS-940が最高級機で、小型機ではTS-430がHF入門機、TS-670が50MHz+αの安い10W入門機、TS-440がHF実戦機と言う立ち位置だった。
  • しかし、このリグは混変調に致命的に弱く、今の7MHzでは聞いていられないほど。CWフィルターはTS-440, 830などと共通。

#懐かしさからか、過渡的で性能が微妙なリグの割に中古でも1.5-2万位で取引されるようだ。

TS-680:課題が残るが、初のマルチバンダー。

割り切りの良いコストダウンのお陰で、670に続いて当時結構売れたと思う。いろいろオプションになっていたTS-670に比べれば当時機能てんこ盛りなのは歓迎された。

  • アップコンバージョンからいきなり455kHzに落とすと言う思想は、コストダウンの賜物だっただろうけれど、丁寧に作ればいい特性が出るため、その後八重洲のFT-850などにも採用されている。
  • モービルHF機を意識してか、操作性はとても結構良く、RIT/IF SHIFT, AF/SQLという一番触るツマミがそれぞれ二軸VRでついてて他は小型スライドボリュームになっていたのと、あと当時としては珍しいサブダイヤルつきで、実際OMのサブリグの他、HFモービル機として結構積んでいるのを観た。
  • 受信性能に致命的課題。感度はとてもよかったが、これも混変調に弱かった。ローバンドでは使う気にならず、ハイバンドであっても、八木を繋いで少し国内Eスポが発生した程度でもアッテネーター無しでは聞けないレベル。
  • 当時のDXer諸氏には、『マルチバンド機はまだまだ実践的に無理があるな』と認識されていた気がする。受信性能の問題もさることながら、100W機(TS-680S)でも50MHzは10W、オマケにアンテナ端子がHF/50MHzで共通と言うのが当時残念だったらしい。
  • 何故かフルブレークインがついていたが、実用的だったのだろうか?
  • あの頃はTS-940/440/680/140というラインアップだった。680の少し後に登場したTS-140は680から50MHzを引いたもので、当時ケンウッドで最も安価なHF機だった。TS-680/140併売商法は、後のTS-690/450併売へと受け継がれる。

#680Sで1-2.5万位。今更感漂うリグに3万出すのは酔狂かな。

TS-690:6m/HFマルチバンダーの到達点。

ケンウッドが90年代初頭に到達した、HF/6m小型実践機の一つの完成形だったと思う。
それまでの600番台が「HF機としてはやっぱり安普請なりだな」と思われていたところがあったけれど、TS-690の登場で、コストパフォーマンスの高いマルチバンダーが実戦機に躍り出た。

  • TS-680で不評だった点が多数改善される。100W機(TS-690S)ではHF 100W、50MHz 50Wになり、アンテナ端子も6m/HFで別接栓。
    • フェイスは当時のTS-950/850とそろえた高級感あるものであるあり、2モードのノイズブランカーの実用性大幅アップ*2、AIPなど当時実戦機に要する機能は内蔵。高級機との違いは、SSBのスピーチプロセッサーがAF、CWではエレキー非内蔵とフルブレークイン非対応、混信除去がスロープチューンではなくIF SHIFTのみでノッチがAF、など。
    • 機能満載になったお陰で、TS-680に比べるとモービル機としては使いずらいかもしれない。
  • 受信部は先代TS-680との共通点が少なく、TS-850のコストダウン機、あるいは小型実戦機TS-440(690/450の登場でリタイアする)をベースにブラッシュアップしたとも考えられる。
    • TS-680と比べると受信初段のフィルタ分割数増加、フロントエンドのクワッドミキサー化など、そうとう強化された。ローバンドでは混変調への弱さが出る*3ものの、何とかDXコンテストで使えるレベルのものだったので、90年代のペディション風景にはよく映っていた。
    • 特筆すべきは、TS-440同様小型機ながら8.83MHz/455kHz IFのトリプルコンバージョン*4となり、上位機と同じSSB/CWフィルターをそれぞれのIFに挿して、それぞれ最適のフィルタを選択できる*5こと。但し初期状態では8.83kHzにマトモなフィルターが挿さっていない(AMモードと共通のモノリシックだけ)ため、IF SHIFTの切れが実用的ではないのもTS-440と共通。周波数構成と言う点では、TS-450/690以降PLLからDDSに切り替わる。但し当時のDDSチップが壊れやすいとか、いろいろいわくつきと言う話。
    • 受信音は、TS-440がカチコチの音だったのに対してTS-690/450はマイルドで、とても聞きやすくなった。
  • ケンウッドではTS-440に続くアンテナチューナー内蔵可能な小型機であり、690と同時発表されたHF専用の兄弟機(TS-450)に搭載のHF用アンテナチューナーユニット(AT-450)をオプションで内蔵できた。このリグは90年代に結構長い間販売されたが、後期はTS-690SAT(元からアンテナチューナー入りバージョン)も販売された。

バブル終わりかけで、まだリグが良く売れていた頃に設計されたリグということで、他社と競いまくるべく、機能満載でよくできたリグでした。
#690はオプション・出力次第だけど3-5万ぐらいが相場っぽい。4万位が落し所かな。

結論。

現代でもマジメに使う気になるのは、最低でも「8.83MHzにSSB/CWフィルターが挿さっているTS-690」だと思う。
TS-680は今使うなら、「多くを期待せず使い潰す、100W出るお遊びマシン」「気楽にHF+50MHzでもしようかな」的なノリに向いているかな。

*1:なんか「カノッサの屈辱」風ですね?(汗

*2:680のノイズブランカも2モードだったけど、実質イグニッションノイズにしか効かなかったと思う。

*3:「フロントエンドの2SK520を2SK125に交換すると混変調が改善される」なる対策があったが、あれはクワッドミキサーではなくトップに入るソース接地プッシュプルRFアンプの2本を交換を交換したはず。2SK520と2SK125はそんなに変わらない代物のはずなので、ホントに効く改造なのか不明。むしろ根本的な解決として、ゲインは下がるだろうけどゲート接地アンプに改造したほうがいいかもしれない。

*4:但し、1st IFがTS-440で45.05MHz、TS-690で73.05MHz。50MHzを入れたお陰で、ルーフィングフィルターを上に持って行く必要があったのだろう。

*5:TS-440は8.83MHzのフィルターだけ追加でき、455kHzはセラミックフィルターのままでした。