駄目社員はむの日記

USO800 certified.

水素は本当にクリーンで環境負荷の低いエネルギーなのか?

燃料電池は主に、水素を使うタイプと、メタノールを供給するタイプ(ダイレクトメタノール)に大別される。とはいえメジャーなのは水素のようで。
産業界で燃料電池にまったく関わっていない企業はそうはないだろう。原料・素材から最終製品にいたるまで、何らかの形で研究開発テーマを持っているはず。


昨日kibojinさんとちょっとしゃべってたのだが、燃料電池というのは実現したとして、環境負荷の低くてエネルギー効率が圧倒的によくなるような素晴らしい代物なのか、ということにいつも僕は首をかしげる

いうまでもないが、環境負荷というのは

末端で使われた時だけのことを考えれば良いというしろもんじゃなくて、原料がどう使われて何が発生するかを総量で考えなければならない。そりゃ末端で自動車を運転して、そのときに排気ガスとしてNOxもCO2もほとんど排出されない。それはたいへん結構なことだ。
だが、”CO2排出の著しい削減にもつながる!”という誤解が、それなりの情報リテラシーをお持ちの方に対しても案外罷り通ってると思う。


ここで水素を供給する側になるであろう、工業の上流側(=石油工業・石油化学工業)ではどうなるかを考えてみよう。

さて、水素の工業的な合成方法をご存知だろうか?

水の電気分解?そんな電力コストのでかいプロセスは成り立たない。
#大体、せっかく火を焚いて作った電気エネルギーで水素を作ってたら世話がない
#ではないか・・・特に日本は電力コストのとんでもなく高い国なのだ。


化学工業では、ふつう高温下における天然ガス(主にメタン)の「水蒸気改質(反応)」を使う。
#ほかに、炭酸ガス改質・メタン部分酸化など。
ごく単純に書けば、同反応の反応式はCH4+H2O→CO+3H2である。
ただ、実際は発生したCOによって「水性ガスシフト反応」(CO+H2O→CO2+H2)も進行してしまう。
あわせると、うまく進行してもCH4+2H2O→CO2+4H2なわけである。

すなわち、化学工業で水素を作ろうとした場合

反応式どおり、最もきれいに(ストイキオメトリックに)反応が進行したとしても、4体積の水素を得ようとすると1体積の二酸化炭素が見事発生し、普通はそのまま大気へ排出されるわけである。
#実際はそんなにきれいに反応しないのだが・・・


メタンを用いると以上の反応式だが、ほかの炭化水素だと1分子あたりのC/H比が大きくなるので、ますます二酸化炭素の発生割合は増えることになる。

そんなんで理学・工学・あるいは工業の世界では

水素を環境負荷低く作るための研究が、(昔々から)色々されているところである。


まあ、ということで・・・
結局、水素をたくさん工業の下流側で消費しようとすると、エネルギーの上流側である石油・化学工業が現状の化学工業プロセスに乗せて水素をバクバク作ることになり、山のようにCO2を吐くことになる。誰かがババを引かされなければならない。
#誰が何をどこで排出するか、ババの引き合いですな。
更に言うと、現在の原油をベースにしたエネルギーは、エネルギー効率の限界に肉薄しようとしている。これに対し、新部材を多数投入して作る燃料電池は、部材などを作るうえでエネルギー消費がはるかに大きい。それに見合ったトータルでのエネルギー効率・CO2エミッションが原油ベースよりも高くなってくれるのかは、推して知るべしである。


・・・さて、水素は環境負荷の低い夢のエネルギーですか?